【分析】面白い小説ってどういう小説?読書好きが思う「面白い小説」の条件とは。

読書

 みなさん、こんにちは。らくとです。
 この世の中には小説が山のようにあります。様々な人を主人公にした、様々なジャンルの小説が毎日のように新しく出版されています。それだけたくさんの小説、そして作家が新しく生み出されるこの世の中で、多くの人の心に残り、記憶に残って読み継がれていく小説はほんの一握りです。
 そんな「面白い小説」には、そして、そんな小説を生み出すことのできる作家には、いったいどんな要素が備わっているのでしょうか。1000冊を軽く超える本を読んできた私が真剣に考えてみた結果、小説の面白さには大きく分けて5つの要素があり、私が面白いと思った小説には、その5つの要素の少なくとも一つ、もしくは複数が備わっていることが分かりました。
 この記事では、その5つの要素の詳しい解説、そして、人気作家さんにはそのうちのどの要素が備わっているのか、ということを解説していきたいと思います。
 あくまでもただの読書好きである私個人の見解ですので、そう思って読んでいただけたら幸いです。なお、これはあくまでもフィクションの小説についての分析であり、自己啓発本やノンフィクション、エッセイ、評論などは原則として含みません。

面白さの5つの要素

 多くの人が「面白かった」「読んでよかった」「素晴らしかった」と思う小説には、今から紹介する5つの要素のうちの一つ、もしくは複数が備わっていると、私は思います。
 では早速、5つの要素を紹介していきます。

①ストーリーの巧みさ

 1つ目の要素は「ストーリーの巧みさ」です。
 展開が面白くて目が離せない、次に何が起こるか予測できずにどきどきする、思ってもいなかったどんでん返しにびっくりする・・・などなど、この要素が備わっている小説は、巧みなストーリーで読者を引き込み、夢中でページをめくらせます
 主にエンターテイメント系の小説やミステリー小説などで面白いものは、この要素を含んでいることが多いです。なお、ミステリーの場合の「トリックのすごさ」というのはここに含まれます。

②文章表現力の高さ

 2つ目の要素は「文章表現力の高さ」です。
 小説というのは全てを文章だけで表現しなければならないものなので、当然文章表現力というのは、小説においてはとても重要な要素の一つです。比喩表現や心理描写、情景描写など、同じ状況や場面を描いていても、作家さんによってその表現は異なります。そして、文章表現力の高い作家さんの文章は、読者に思わず感嘆のため息を漏らさせ、読者を物語の中に引き込んでいくのです。
 主に純文学系の小説で優れているものが含んでいることの多い要素です。

③キャラクター設定の上手さ

 3つ目の要素は「キャラクター設定の上手さ」です。
 小説というのには、当たり前ですが登場人物というものが存在します。ストーリーを進めていく役割を果たしてくれる登場人物たちですが、この登場人物たちが魅力的かどうかというのも、小説を面白くするのに重要な要素の一つです。独特でぶっ飛んだキャラクターであったり、逆に親近感の湧くようなキャラクターであったりと、色々と考えられますが、とにかく、読者に、この子たちにまた会いたい!別の話も見てみたい!そう思わせる魅力が必要です。
 主にライト文芸やシリーズものの含んでいることが多い要素です。

④世界観や発想の独特さ

 4つ目は「世界観や発想の独特さ」です。
 世界観というのは、設定やストーリー、文章表現力を全てひっくるめて、その小説全体が持っている雰囲気のことを言います。他の人では思いついたり、真似したりできないような独特な世界観、斬新な発想を持っている小説や作家さんはやはり面白いです。作者を伏せられた状態で読んでも、あの人が書いたのだろうなと分かるほど強い世界観を持つ作家さんもいらっしゃいます。
 これは特にジャンルなどはありません。

⑤心に響く

 5つ目は「心に響く」です。
 小説というのは、それを通して私たちに何かを伝えようとしていることが多いです。それは例えば何らかの社会問題であったり、人生の哀しみであったり、恋愛のつらさであったりと様々です。そのストーリーや文章を通して、私たちの心に何らかの感情を強く起こさせたり、何かを深く考えさせたりする、そんな風に、私たちの心に響くかどうか、訴えかけてくるものがあるかどうか、それも小説の面白さの要素の一つです。
 こちらは主に社会派の小説やヒューマンドラマ系の小説に多く含まれる要素です。

具体的に作家さんを分析!

 ではここからは、具体的な作家さんをあげて、その人の作品は上に紹介した5つのうちのどの面白さを特に含んでいるのかを分析していきたいと思います。なお、彼らはもちろんプロの小説家ですので、この5つの要素は最低限全て備えているということを前提にして、その上で特にどの要素が強いのかを分析していきます。

東野圭吾さん

 まずは、おそらく大衆人気という点では日本人作家No.1と言っても過言ではない東野圭吾さんからです。ミステリー作家さんで、著作がかなり多いのでも有名ですね。
 東野圭吾さんの作品は①ストーリーの巧みさと⑤心に響く、この二つの要素が強いと思います。
 東野圭吾さんは初期の頃と今では少し作風が変わっています。初期の頃は本格ミステリーが多く、ストーリーの巧みさが目立っていましたが、次第にヒューマンミステリーの方に方向性をシフトし、社会問題や人間の心理などを描く、人の心に響く作品が多くなりました。
 ストーリーの巧みさがより感じられる作品は、初期の「仮面山荘殺人事件」です。

 一方、心に響く作品には「手紙」があります。

森見登美彦さん

 次は、京都を舞台にした作品を書くことの多い森見登美彦さんです。ファンタジー色の強い作品が多いです。
 森見登美彦さんの作品は、キャラクター設定の上手さ④世界観や発想の独特さの二つの要素が強いと思います。
 森見さんの作品は、京都の街を舞台に、個性的な登場人物たちが暴れ回る(?)という作品が多いです。その、いろんなものがごちゃごちゃと(褒めてます)寄せ集まったちょっと不思議で妖しい世界観や、少し古めかしい文章表現や言葉遣いは、森見さんの作品独特のものです。また、登場人物たちにも、変てこで馬鹿馬鹿しいけどどこか憎めない、不思議な魅力があります。
 おすすめ作品は、森見さんの世界を存分に堪能したいのであれば、「夜は短し歩けよ乙女」、そして、個人的に私が気に入っている作品としては「宵山万華鏡」があります。

吉本ばななさん

 3人目は世界的にも有名な女流作家吉本ばななさんです。
 吉本ばななさんの作品は、②文章表現力④世界観や発想の独特さ、この二つの要素が強いと思います。
 文章表現力については、少し読んでいただければすぐに分かると思います。その文章は繊細で美しく、読んでいると心が澄んでいくような気持ちになります。はっとするような素敵なフレーズやセリフが多くて、メモを取りながら読むこともしばしばです。そして、そんな文章で紡ぎ出されるのが、優しいのにどこか淋しく、現実なのに現実でないような、そんな不思議な世界観です。
 おすすめは代表作である「キッチン」、そして個人的に好きな作品である「彼女について」です。

小川洋子さん

 4人目はこちらも、世界で高い評価を受けている女流作家小川洋子さんです。
 小川洋子さんの作品も、②文章表現力④世界観や発想の独特さの二つの要素が強いと思います。
 小川洋子さんも文章表現力がずば抜けています。それほど感傷的ではなく、淡々として静かで、でも的確で美しい文章です。何気ない日常の中のさりげない一場面を切り取り、小川さんならではの感性でそこに意味を見出すことで、世界をちょっと不思議で美しいものに変えていく、小川さんの作品はそういうものが多いと思います。
 おすすめは、「博士の愛した数式」と、個人的に気に入っている「ことり」です。

東川篤哉さん

 5人目はユーモアミステリーの名手東川篤哉さんです。
 東川篤哉さんの作品は①ストーリーの巧みさ③キャラクター設定の上手さの二つの要素が強いと思います。
 烏賊川市シリーズや鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ、魔法使いシリーズ、謎解きはディナーのあとでシリーズ、などなどシリーズもののミステリー小説を多く書いている東川篤哉さん。彼の最大の特徴はなんといってもその抜群のユーモアのセンスです。出てくるキャラクターの馬鹿さ加減、事件を追う彼らが繰り広げるドタバタ劇が面白く、いつも爆笑しながら読みます。そして、笑いを取りつつも謎解き要素は本格的でしっかりとしており、ミステリー小説としても十分満足できます。
 おすすめは「放課後はミステリーとともに」(鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ)と、「密室の鍵貸します」(烏賊川市シリーズ)です。

加納朋子さん

 6人目は日常の謎の名手加納朋子さんです。
 加納朋子さんの作品は、①世界観や発想の独特さ⑤心に響く、この二つの要素が強いと思います。
 加納朋子さんの作品の特徴を一言で表すとするならば、「温かい」だと思います。ストーリーも登場人物も、作中に掲示される謎も、全てがほんのりと温かいのです。読んでいると自然と心が温まって笑みがこぼれるような、癒やし系の小説が多いと思います。作者さん本人の優しい人柄が透けて見えるような素敵な物語ばかりです。
 おすすめは、「てるてるあした」と、「トオリヌケ キンシ」です。

 あと、個人的に、ノンフィクションなのですが、「無菌病棟より愛をこめて」もおすすめです。2010年に急性白血病と診断された加納朋子さん。その闘病の様子を描いたもので、彼女の温かさ、強さを感じることのできる作品なので、ぜひ。

綾辻行人さん

 7人目は、新本格ミステリーの先駆けとなった人であり、そして私の一番好きな作家さんでもある綾辻行人さんです。
 綾辻行人さんの作品は、①ストーリーの巧みさ④世界観や発想の独特さ、この二つが強みだと思います。
 綾辻さんの作品はやはりストーリーやトリックが素晴らしいです。日本の本格ミステリ界に多大なる影響を及ぼした「十角館の殺人」を始めとして、常人では思いつかないようなトリック、ストーリーを持つホラーやミステリーを次々と生み出してきました。それに加えて、綾辻さんの作品にはどれも、どこか幻想的なような、不気味なような、共通の雰囲気が漂っていて、その世界観がたまらなく好きです。はまる人はドはまりすると思います。
 おすすめしたい作品は山ほどあるのですが、やはり外せない「十角館の殺人」と、個人的に大好きな「最後の記憶」、アニメ化や映画化もされた「Another」の3冊に収めておきます。

恩田陸さん

 8人目は、大衆の人気をかなり獲得している作家恩田陸さんです。
 恩田陸さんの作品の強みは、①ストーリーの巧みさ②文章表現力だと思います。
 ミステリー、人間ドラマ、ホラー、青春など書く作品のジャンルは幅広く、けれどどの作品も上質で読み応えがあるのは、やはりこの二つの要素が強いからだと思います。思わず息を吞んで、夢中でページをめくってしまうストーリー展開、そして、ときにはノスタルジックに、ときには不気味に、ときには瑞々しく、どんなものでも、どんな風にも描くことのできる文章表現力。私は特に、「チョコレートコスモス」を読んでその表現力に圧倒されました。こちらは演劇の世界を描いた小説です。ぜひ読んで欲しいです。他にも、個人的に好きだった作品として「麦の海に沈む果実」をあげておきます。

伊坂幸太郎さん

 9人目は、独特の存在感を放つ作家、伊坂幸太郎さんです。
 私は伊坂幸太郎さんの作品の強みは①ストーリーの巧みさ④世界観や発想の独特さだと思います。
 伊坂さんと言えばやはり先が気になってどんどん読み進めてしまう、ストーリーの面白さが特徴の一つです。癖の強い、どこか飄々とした登場人物たちが物語をかき回し、そして予想外の展開と見事な伏線回収にあっと驚く・・・そんな作品が多いと思います。そして、伊坂さんの文章には、比喩や言い回しに独特のセンスがあります。一見ドライなようでもあり、でもその奥底には温かさがある・・・そんなちょっと変わった、伊坂さん特有の世界観が私は好きです。
 私のおすすめは「アヒルと鴨のコインロッカー」と「ゴールデンスランバー」です。

道尾秀介さん

 10人目は、ミステリー作家としての地位を確立している道尾秀介さんです。
 私は道尾秀介さんの強みは①ストーリーの巧みさ②文章表現力だと思います。
 ミステリーを多く書いている道尾さんですが、道尾さんの作品には二つのパターンがあると思っています。一つは謎とストーリーに重きを置いた作品で、もう一つは登場人物の心情や人生に重きを置いた作品です。前者は特に①の要素が強く、後者は②の要素が強く表れています。どちらにしろわりと鬱々とした、暗めの作品が多いですが、それもまた道尾さんの作品の魅力の一つです。とにかく総合的に見て、物語としてのレベルが高いミステリー作品ばかりを生み出している作家さんです。
 ①の要素が強いおすすめ作品は「カラスの親指」、②の要素が強いおすすめ作品は「光媒の花」です。

重松清さん

 11人目は、読者を泣かせるのが上手い作家、重松清さんです。
 重松清さんの作品の強みは、②文章表現力⑤心に響くの二つだと思います。
 重松さんの作品は、とにかく泣けるものが多いのです。実は私はあまり本を読んで泣かない人間なのですが、重松さんの作品にはいつも、気が付けばほろりと泣かされています。特に難しい言葉や文章もなく、登場人物も特別な人でもなければ、特別なことが起きるわけでもない。どこにでもいるような庶民的な人々の人生や思いが、平易で素朴ながら温かい言葉や文章で表現されています。ですから、小学生の子どもから大人まで、みんなの心にすっと入って来てじんわりと染み渡るのです。
 おすすめは、「きみの友だち」と「その日のまえに」です。

住野よるさん

 12人目は、10代や20代の若者からの人気が強い作家、住野よるさんです。
 住野よるさんの強みは、③キャラクター設定の上手さ⑤心に響くだと思います。
 個人的に住野さんは学生や若者の心情や人間関係を書くのがとても上手いと思います。私もまだ若者と十分に言える年齢なので、住野さんの本を読んでいると、共感できることや、学生時代の自分に思い当たることが多くて、そうそう、と頷いたり、胸が痛んだりします。その時期特有の若さや痛々しさを持って悩む登場人物たちに感情移入し、物語に引き込まれていくのです。
 おすすめは、デビュー作でもあり、日本でブームとなった「君の膵臓をたべたい」と、個人的に好きな作品である「よるのばけもの」です。

まとめ

 どうだったでしょうか?
 この記事では、本の面白さを5つの要素に分けた上で、それらの5つの要素のうちどれが強いのか、という観点で12人の人気作家さんを分析してみました。
 あくまでも個人的な分析・感想なので異論はもちろん認めますが、共感していただけたら嬉しいです。そして、読んだことのない作家さんがいたら、これを機に手に取ってみてほしいです。
 最後まで読んでくれてありがとうございました。
 では、ここらで。
 良い読書ライフを!

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