【大好きな本をネタバレなしで語る】「十角館の殺人」編

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Krzysztof PałysによるPixabayからの画像

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 みなさんこんにちは、らくとです。

 この記事で私が語るのは、日本ミステリー界に燦然と輝く不朽の名作、綾辻行人さんの「十角館の殺人」です。

 最近、実写映像化されて、また話題になっているこの作品。1987年というかなり昔に刊行された作品なのに、今でもミステリーランキングなどでは上位に、それどころか1位に挙げられることも多い伝説の一作です。

 私の一番好きな作家さん・綾辻行人さんのデビュー作ということで、私にとっても大好きで特別な思いのある作品です。

 この作品がどれだけすごいのか、何がすごいのか、どうして時代を超えてこんなに読まれているのか・・・それについて、この記事ではネタバレなしで語っていこうと思います。読了済みの方で、ネタバレありの感想を知りたい!という方は、ネタバレありバージョンの記事もありますので、ぜひ読んでみてください↓。
【大好きな本をネタバレありで語る】「十角館の殺人」編 | らくとの本棚 (rakutonohondana.com)

あらすじ

 まずは、あらすじから紹介したいと思います。

 惨劇の舞台となるのは、九州大分県辺りの海上に浮かぶ小さな島、「角島(つのじま)」

 そこに渡るのは、ある大学の推理小説研究会のメンバー七人。お互いにニックネームで呼び合う彼らは、推理小説愛好家としての知的好奇心を満たすためにその角島を訪れ、一週間滞在する予定でした。次に船が来るのは一週間後、島からの連絡手段、なし。

 なぜ彼らが角島に興味を持つのかというと、その半年前に、その角島である事件があったからです。というのも、その島の主であった中村青司という建築家が、島にあった屋敷で妻と使用人夫妻とともに殺されたのです。この事件には不可解な点がいくつかあり、いまだ真相ははっきりしていません。彼らの好奇心をくすぐるには格好のネタだったわけです。

 かくして彼ら七人は、亡き中村青司が建てた、屋敷の離れであった十角形の館、通称「十角館」で寝泊まりをすることになるのですが、そこから彼らが一人また一人と殺されていくのです。

 一方、本土の方では、島に渡った連中と同じ推理小説研究会に所属していた二人の元に、奇妙な手紙が届きます。その手紙によって、半年前の中村青司の事件に興味を惹かれた彼らは、事件について調べ始めるのですが・・・。

 とまあ、こういった話です。「館もの」×「絶海の孤島」という本格ミステリー好きにはたまらない組み合わせの作品です。

どれだけすごいの?

 まずは、この「十角館の殺人」のすごさについて少し語りたいと思います。

 まず、この作品が刊行されたのは、1987年。日本ミステリー界・ホラー界の重鎮として現在も活躍し続けている綾辻行人さんのデビュー作です。本格ミステリーの大家である島田荘司さんの推薦の下、デビューしました。

 ちなみに、「十角館の殺人」は「館シリーズ」の第1作目でもあります。館シリーズについては、いつかまた別にまとめ記事を書こうかと思っていますが、その名の通り、奇妙な館で起こる殺人事件を描いた本格ミステリーシリーズです。しかもただの館ではなく、その館は、全て「中村青司」という建築家によって建てられたものなのです。ミステリファンの中ではかなりの人気シリーズで、私も大好きです。今綾辻先生がシリーズ最終作を書いていらっしゃるようで、今からとても楽しみにしている読者も多いのではないでしょうか。

 この「十角館の殺人」ですが、日本の本格ミステリー界では伝説の作品として有名です。何がそんなにすごいのかと言いますと、この作品が「新本格ムーブメント」のきっかけとなったからです。この作品を皮切りに、1980年代後半から1990年代前半にかけて、「新本格」と銘打たれた多くの若手推理小説作家が次々とデビューし、本格ミステリー界に大きな変化と進展をもたらしたのです。この一連の動きを「新本格ムーブメント」といいます。綾辻行人さんの他にも法月綸太郞さん、有栖川有栖さん、麻耶雄嵩さん、京極夏彦さん、森博嗣さんなどが「新本格」と言われています。

 「新本格」というのは、それまでの古典的な本格ミステリーに敬意を表し、その大事な部分はしっかりと受け継ぎつつも、これまでになかった様々な手法や考え方をも取り入れることで、本格ミステリーに新しい風を吹き込もう、というものでした。このムーブにより、本格ミステリーがより大衆に受け入れられるようになりました。今も新しい本格ミステリーが毎年刊行されていますが、それらの中には、この時期の新本格作家たちの影響を受けた作品がたくさんあるのではないでしょうか。

 この一大ムーブメントの先頭をひた走っていたのが、綾辻行人さんであり、この「十角館の殺人」なのです。この作品が日本の本格ミステリー界に与えた影響は計り知れず、「綾辻以前・以後」という言葉が生まれるほどでした。

 「十角館の殺人」という作品のすごさが伝わったでしょうか?

 「これを読まずして本格ミステリーは語れない」と言われるのもむべなるかな、というほどの偉大な作品なのです。

魅力はなに?

 では、この「十角館の殺人」、何がそんなに人々を惹きつけるのでしょうか。

 私が思う「十角館の殺人」の魅力を3つ、紹介したいと思います。

1.あらすじからわくわく

 まず、本格ミステリー好きならば、あらすじを見ただけで心躍るのではないでしょうか。なんといっても鉄板ともいえる「館もの」×「絶海の孤島」の組み合わせです。

 「館もの」も「絶海の孤島」もどちらも本格ミステリーでは定番ともいえるもので、これらがかけ合わさっているなら、面白くないはずがありません。しかも、その島は、半年前に恐ろしい殺人事件が起きているといういわく付きです。そして、そこで突然起きる殺人事件、暗躍する不気味な殺人鬼、減っていく仲間たち、しかし逃げる場所はどこにもないという絶望感・・・。

 あらすじだけを見ると、何とも王道なんですね。実際、ストーリーや舞台設定自体には、真新しさはあまりないかもしれません。けれど、なんだかんだいっても王道というのは面白いから王道なのであって、「なんたみたことあるなあ、これ」と思いつつも、本格ミステリーファンならやはりわくわくしてしまうのではないでしょうか

2.ちりばめられた本格ミステリー愛

 次に、この「十角館の殺人」には、様々な部分に、本格ミステリーへの愛がちりばめられています。まず、あらすじを見て、お、これは・・・と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、この舞台設定・ストーリーは、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」に似ていますよね。現に、この作品を意識したのであろう箇所がところどころ見られます。

 また、島にわたるメンバーたちのニックネームもまた、「エラリィ」や「カー」など、海外の有名ミステリー作家にちなんだものとなっていますし、他にも、本格ミステリ好きなら分かるであろう粋な表現が多々使われており、この作者は本格ミステリーが好きなんだなあ、ということが伝わってくるのです。なんというか、いかにも本格ミステリー好きが高じて書いてみたら、すごいものができました!というような、本格ミステリーオタクが書いた本格ミステリーって感じがするんですね(褒めてます)。

 そして、この作品からは、本格ミステリーをあくまで知的遊戯として捉える作者のスタンスを感じます。そして、ゲームの出題者である作者自身がゲームをすごく楽しんでいる、それが感じられるのが、とても好きな部分です。

3.ミステリーとしての完成度

 そして、この作品の一番の魅力は、なんといってもミステリーとしての完成度でしょう。大量のミステリー小説が日々生み出されているなかで、この「十角館の殺人」がこんなにも時代を超えて人々に評価されているのは、やはり、ミステリーとしてとてつもなく優れているからです。

 私は、この記事を書くにあたって、約10年ぶりくらいにこの「十角館の殺人」を再読しました。最初に読んだときは中学生くらいで、ミステリー小説にもあまり慣れていなかったので、その衝撃はとても大きく忘れがたいものでした。けれど、あれから10年の間に、様々な本格ミステリーを読み漁って、すっかりミステリーオタクといってもいい域に達したと思います。そこで改めて手に取った「十角館の殺人」。もう犯人もトリックも全て分かっている状態での再読。ミステリーにはもう慣れてしまったし、私の中では、もうこの作品のすごさは薄れてしまっただろうな、と少し寂しく思いながら読んだのです。

 しかし、私の予想は外れました。一度読んだことがあるはずなのに、読み始めてすぐに物語に引き込まれました。緊迫感溢れる角島の雰囲気、殺されていく仲間たち。張り巡らされた伏線に、明らかになっていく新事実。結末が分かっているので、これもあれも伏線だったのだ、と改めて気付きながら夢中で読んで、そして、衝撃の真相が明かされるところでは、再読なので驚きこそしませんでしたが、感嘆というか、「うわーやっぱすごいな、この作品は」としみじみ思いました。10年ぶりに改めて読んで、薄れるどころか、よりいっそう、この作品のすごさが分かったような気がします。

 なんといってもその完成度は凄まじいものです。読み直して分かる数々の伏線。あれもこれも、物語の中のどんな些細な部分でも、この物語には必要だったのだと、あらゆるところに作者の意図が潜んでいたのだと、読み終わってから気付かされます。そして、最後に突きつけられるのは驚愕の真相。分かったときには、まさにひっくり返るように驚くことになるでしょう。その真相はいつ読んでも真新しく、どれだけの数のミステリーが新しく出版されても、色褪せることがありません。むしろ輝いていくような気すらします

まとめ

 この記事では、ネタバレなしで「十角館の殺人」について語りました。

 私が言えるのは、とにかく一度、読んでみてほしいということ。衝撃の読書体験が、あなたを待っていると思います。

 本格ミステリー好きでまだ読んでいないという人には絶対に読んでほしいし、ミステリー好きではなくても読んでほしい、そして、それを機にミステリーにはまってほしい、そう思う作品です。

 では、ここらで。
 良い読書ライフを!

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