実際の出来事を題材にした小説11選!

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 みなさんこんにちは、らくとです。

 新聞やテレビを見ていると、この世界では毎日のように、どこかで事故や事件が起こっていることが分かります。それは今に始まったことではなく、ずっと昔から変わらないことです。過去を振り返ったときに、「ああ、あのときこんなことがあったなあ」と多くの人が思い出すような、そんな記憶に残る出来事。関わった人々の人生を奪い、狂わせ、実際には関わっていない人々にさえ衝撃を与えるようなそんな出来事。

 ある事件や出来事が起こったとき、それには背景というものがあります。それは降って湧いたように起こるわけではなく、それまでの行動、心、思想、境遇、社会の闇・・・そういったものが積み重なり、ある一線を超えたとき起こるのです。大切なのは、その背景を知ることではないか、と思います。

 「ああ、あんなことがあったなあ」「そんなことがあったんだなあ」・・・ただふっとそう思うだけでもいいですが、それだけではなく、その背景にも目を向け、もっと掘り下げて知りたい、そう思う人におすすめするのが、この記事で紹介する、「実際の出来事を題材にした小説です。

 もちろん題材にした、モデルにした、というだけで、実際に起きたことや関係者が思ったことと同じではないでしょうし、そこには著者自身の思想や解釈が含まれると思いますが、その出来事を取り上げることによって伝えたかったことが、著者にはあるはずです。

 「このようなことが、昔実際に起きたのだ」そう思いながら読むと、強いリアリティを感じ、より作品の中に入り込み、そのテーマについて巡らす想いも多く、深くなると思います。実際の出来事である分少し重く感じるかもしれませんが、ぜひ読んでみてほしいです。

実際の出来事を題材にした小説11選!

 では、さっそく紹介していきたいと思います。

校庭に、虹は落ちる:赤川次郎

 まず紹介するのは、赤川次郎さんの「校庭に、虹は落ちる」です。

 まさか、あんなことが起こるなんて思わなかった・・・親友を目の前で亡くしたショックから、「はしること」を頑なに拒む少女・朝野さつき。まだ傷が癒えない彼女は高校へ進学し、ある少年と出会う。

 題材になったのは、「神戸高塚高校校門圧死事件」です。

神戸高塚高校校門圧死事件:1990年に兵庫県の神戸高塚高校で起きた事件。高校の教諭が遅刻を取り締まる目的で登校門限時刻に校門を閉鎖した際、門限間際に滑り込もうとした女子生徒が頭を校門に挟まれて死亡した。学校の生徒に対する管理や指導の厳しさや学校の隠蔽体質などが問題視された。

  作中でさつきが親友を亡くした事件というのが、この事件に酷似しているので、おそらくモデルにしたのだろうと思われます。

 学校の闇というのは、今でもしばしば取り沙汰されるもの。昔よりはましになったのかもしれませんが、生徒の締め付けの厳しさや学校でいじめや何らかの事件が起こったときに自己保身のために隠蔽しがちな部分は今でも問題視されることがありますよね。

 この小説は、「学校」という閉鎖社会の中で、大人への不信感や息苦しさを感じながらも戦い、成長していく少女と少年の姿を描いた小説です。学生にとっては世界の全てとも言える学校。学校や、そこにいる大人たちは、繊細で傷つきやすい年頃の子どもたちを守ってくれるのか、それとも、むしろ追い詰めるのか。けれど結局、変わるのも、前に進むのも、全部自分自身が決めること。

 社会派の一面も持つ学園ミステリーを、ぜひ。

八つ墓村:横溝正史

 次に紹介するのは、横溝正史の「八つ墓村」です。

 鳥取と岡山の県境の村。かつて戦国の頃、欲に目が眩んだ村人たちが、大金を携えた8人の落ち武者を惨殺して以来、八つ墓村と呼ばれ、不祥の怪異が相次いだ。大正になり、首謀者の子孫が突然発狂、32人の村人を虐殺して行方不明となる。20数年後、再び村を怪奇な殺人事件が襲う・・・

 題材になったのは、「津山三十人殺し」です。

津山三十人殺し:1938年に岡山県で起きた大量殺人事件。犯人は村に住む若者で、猟銃と日本刀による殺戮により、わずか2時間足らずの間に村人28人が即死、後に2名が死亡した。その犠牲者数の多さから、日本犯罪史に残る大事件である。犯人の青年が結核を患っていたことにより村で疎外に近い状態になっていたことが動機だとされている。

 かなり昔の事件ですが、今でも語り継がれるほどに凄惨な事件です。「八つ墓村」が津山三十人殺しを題材にしているというのも、それなりに知られているのではないかと思います。

 とはいっても、津山三十人殺しがモデルになっているのは、メインの事件ではなく、そこから20数年前の大正時代に起きたとされる、32人の村人虐殺事件の方です。事件の背景などは変えられていますが、犯行の方法や殺した人数などから、津山三十人殺しがモデルだと分かります。

 「八つ墓村」は横溝正史の金田一耕助シリーズの中でもかなり評価の高い作品です。忌まわしい歴史を持つ八つ墓村で起こる、血も凍るような恐ろしい連続殺人事件を描いています。ミステリーですが、事件の犯人の冷徹さ、残虐さ、そして事件の凄惨さを考えるとホラーに分類してもいいくらいです。

 昔ながらの村の閉鎖的な空気感や、血のおぞましさ、人間の怖さ・・・個人的に、村もののミステリーの最高傑作だと思っています。ぜひ一度、読んでみてください。

罪の声:塩田武士

 次に紹介するのは、塩田武士さんの「罪の声」です。

 京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼い頃の声。それは31年前に発生し、未解決のままの「ギンガ萬堂事件」で恐喝に使われたテープと全く同じものだった。

 題材になった事件は、「グリコ・森永事件」です。

グリコ・森永事件:1984年と1985年に阪神間を舞台に起きた、食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件。江崎グリコ社長の拉致に始まり、企業の放火や脅迫を続けたり、小売店で毒入りの菓子をばらまくなどして日本を不安に陥れた。警察庁広域重要指定事件となり、膨大な数の捜査員が動員されたが、結局未解決のまま時効となった。

 今でも多くの謎を残し、昭和最大の未解決事件ともいわれる「グリコ・森永事件」。本作で主人公が追うことになる「ギンガ萬堂事件」はこの事件をモデルにしています。

 私自身はまだ生まれていないので記憶にないのですが、社会にかなりの影響を与えた事件ということで、名前は聞いたことがありました。中年以上の人ならば、記憶に残っている人も多いと思います。

 あくまでもモデルになっているというだけであり、作品自体はフィクションなのですが、まるでノンフィクションを読んでいるようなリアリティがあり、ぐいぐいと物語に引き込まれていきました。実際の「グリコ・森永事件」は未解決で、多くの部分が謎に包まれていますが、その裏ではひょっとしたら本当にこんなことがあったのかもしれない、そういう想像をかき立てられて、読み応えがありました

 きっと作者さんがすごい時間と労力をかけて取材をしたのだろうな、と思います。その熱意が文を通してひしひしと伝わってくるようで、圧倒されました。ぜひ、読んでみてください。

海と毒薬:遠藤周作

 次に紹介するのは、遠藤周作さんの「海と毒薬」です。

 戦争末期の恐ろしい出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、「日本人とはいかなる人間か」を追究した作品。解剖に立ち会ったのはどんな人間で、何を思っていたのか?神なき日本人の“罪の意識”の不在の不気味さを描いた問題作。

 題材となったのは、「九州大学生体解剖事件」です。

九州大学生体解剖事件:第二次世界大戦中の1945年、福岡県の九州帝国大学(現・九州大学)医学部で、アメリカ人捕虜8人に生体解剖(被験者が生存状態での解剖)が施術された事件。8名全員がその実験により死亡した。GHQの調査により、実験に立ち会った医師らが逮捕された。

 当時はそれほど世に知られた事件ではなく、むしろこの「海と毒薬」という小説によってこの事件を知ったという人が多いのではないでしょうか。

 生体解剖・・・この言葉だけですでにおぞましい響きがありますよね。どうしても倫理的な面で嫌悪感を覚えてしまうそんな恐ろしい出来事が、実際に戦中の日本で行われたのです。実験が行われたときの解剖室の様子や、立ち会った医師の心情などがとてもリアルな筆致で描かれており、ぞっとしました。

 そして、この事件の背景にあったのではないか、と作者が考えているのが、日本人の宗教観なのです。宗教観というよりもむしろ無宗教観とも言うべきものかもしれません。キリスト教徒のように確固たる倫理や原理を持たないがために、その場その場の状況に流されてしまう・・・そんな日本人の性質がこんな恐ろしい事件の発生を許してしまったのではないか、という作者の考えは、現代の私たちにも通じる部分があり、とても興味深いです。

 作者である遠藤周作さんがカトリック教徒であることもあり、宗教と精神という面からこの事件に切り込んだ本作。かなり評価の高い文学作品でもあるので、ぜひ読んでみてください。

アンネの日記:アンネ・フランク

 次に紹介するのは、アンネ・フランクの「アンネの日記」です。

 第二次世界大戦中、ドイツによる占領下のオランダ、アムステルダム・・・ナチによるユダヤ人迫害が横行する異常な環境の中、13歳から15歳という思春期を過ごしたユダヤ系ドイツ人の少女、アンネ・フランク。夢と悩みを抱いた普通の少女・アンネが確かに存在したことを示す、世界的ベストセラー。

 これは小説というよりも、その名の通り日記であり、そこに登場するアンネ・フランクや他の人々も実在した人々です。ですから題材になったのは文字通り、アンネたちの当時の生活それ自身ということになります。しかし、その生活の背景には「ホロコースト」と呼ばれた差別政策がありました。

ホロコースト:第二次世界大戦中の国民社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)支配下のドイツやその占領地において組織的に行われた、ユダヤ人などに対する絶滅政策・大量虐殺を指す。ユダヤ人は拘束された上で強制収容所に送られ、そこで強制労働を課せられたり、殺害されたりした。

 世界的にも悪名高い、第二次世界大戦中に行われたホロコースト。ユダヤ人であるというだけで多くの人が人間としての尊厳を踏みにじられて亡くなりました。この日記を書いた少女、アンネもユダヤ系のドイツ人であり、迫害の標的となりました。

 この日記は、アンネが見つかって逮捕されるまでの、隠れ家での集団生活の様子を書いたものです。ときに家族に反抗し、ときに恋をし、ささいなことに悩み、そして将来を夢見る・・・アンネはそんな、年相応の普通の女の子。歴史を見ると、ユダヤ人というのは虐げられている姿だけが強く印象に残るかもしれませんが、その一人一人はきっと、ごく普通の人々で、収容所に送られるまでは普通に生きていた・・・そんな当たり前のことを記録に残してくれたのが、この日記なのだと思います。

 小説家かジャーナリストになりたい、そんな夢を見ていた少女、アンネ。彼女自身は結局逮捕後に収容所で帰らぬ人となりましたが、生き残った彼女の父親が世に出したこの日記は、時代を超えて多くの人に読み継がれ、ベストセラーにまでなりました。それを思うととても感慨深い気持ちになります。人生で一度は読んでみてほしい作品の一つです。

永遠の0:百田尚樹

 次に紹介するのは、百田尚樹さんの「永遠の0」です。

 終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ実の祖父の生涯を調べていた。特攻で逝ったという祖父、宮部久蔵。彼と関わった人々から話を聞く内に、想像とは違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる・・・。記憶の断片が揃うとき、明らかになる真実とは。

 こちらは第二次世界大戦の特攻隊を題材にした小説です。

神風特別攻撃隊:太平洋戦争で大日本帝国海軍によって編成された、爆装航空機による体当たり攻撃部隊を中心に構成された部隊のこと。攻撃目標は艦船。爆弾を積んだ飛行機で敵の艦船に体当たりする攻撃方法であり、それなりの戦果は上がったが、パイロットの死をほぼ前提とした攻撃であった。

 映画化も大成功し、小説も400万部を売り上げる大ベストセラーとなったこちらの作品。第二次世界大戦を扱った作品というのはたくさんあるのですが、その中でも特に衝撃を受け、心を揺さぶられたのがこの作品です

 今となっては、日本にとって過去の話となりつつある戦争。けれど、それは何十年も前に実際にあったことで、実際にそれを経験した人がいる。そして何よりも、その時代を経験し、大切な人を亡くして身を切るような思いをしながらも生き抜いた人々が子どもを生み、育て、またその子が子を生み、育て、それが続いて私たちも生まれ、今生きている・・・そんな風に考えると、戦争というのは私たちに関係のないことではないと思えます

 「生きて帰りたい」そんな当たり前のことを言うことさえ許されなかった時代。日本のために命を捨ててまで戦ったのはどんな人々で、どんな思いだったのか・・・宮部久蔵という一人の男の生涯を辿っていく過程で、見えてくるのは、日本の戦争です。日本人であるがゆえに辛くて本を置きたくなるような場面もたくさんありましたが、これは日本人が読むべき本だと思います。

 多くの人に読まれ、話題になったがゆえに、「戦争を美化している」「正当化している」など様々な方面から批判を受けた作品でもあるそうですが、それでも私は第二次世界大戦を扱った小説の代表としてこれをおすすめします。それくらいに心が揺さぶられる小説でした。ぜひ読んでみてください。

ある奴隷少女に起こった出来事:ハリエット・アン・ジェイコブズ

 次に紹介するのは、ハリエット・アン・ジェイコブズの「ある奴隷少女に起こった出来事」です。

 好色な医師フリントの奴隷となった美少女・リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身籠もることを・・・。絶対に屈しない。自由を勝ち取るまでは――人間の残虐性と不屈の勇気を描く奇跡の実話。

 この作品は、約150年前に書かれたノンフィクションです。リンダという奴隷少女は作者自身で、自伝的な作品となります。書かれた当初は創作だと思われて注目されず、実に1世紀以上も忘れ去られていましたが、出版後126年経った1987年に実話であったことが証明されました。それ以来じわじわと読者を増やし、米国でベストセラーにまでなりました。

 ノンフィクションなので、題材は作者であるジェイコブズ自身の半生・・・ではあるのですが、その半生の重要な背景としてアメリカの奴隷制度があります。

奴隷制度(アメリカ):1640年代から1865年まで、現在のアメリカ合衆国領域内ではアフリカ人とその子孫が合法的に奴隷化されており、その所有者は圧倒的に白人が多かった。特に南部で奴隷制が一般的であった。しかし1865年、南北戦争における北軍の勝利により南部の奴隷制度は廃止された。

 今でこそ自由を誰もが享受できるのが当たり前の時代ですが、そう遠くない過去は、そうではありませんでした。人が人を「所有」するということの異常さ・・・今では信じられないと思うような残虐なこともまかり通り、多くの被所有者もそれを自身の運命として受け入れていた時代。そんな時代の只中で、自由を勝ち取るために戦い抜いた一人の女性がいたことを、この作品は毅然として示しています。

 奴隷制度がいかに残酷だったのか、いかに悪しき制度だったのか・・・この作品が伝えたいのはそこではありません。社会や制度という大きなものを前にしても怯まずに、耐え忍び戦い抜き、それに打ち勝つ・・・それだけの勇気と強さが人間にあるのだということ、それに私は感銘を受けました。彼女の強さは、150年後の現代に生きる私たちにも力を与えてくれます。

 一人の女性の、まさに魂の物語を、ぜひ。

塩狩峠:三浦綾子

 次に紹介するのは、三浦綾子さんの「塩狩峠」です。

 結納のため札幌に向かった鉄道職員・永野信夫の乗った列車が塩狩峠の頂上にさしかかったとき、突然客車が離れ、暴走し始めた。恐怖に怯える乗客。そのとき信夫は・・・明治末年、北海道の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った青年の愛と信仰に貫かれた生涯を描いた長編小説。

 この塩狩峠の鉄道事故というのは実際にあったことで、この小説の主人公のモデルとなっているのが、この事故で殉職した鉄道職員・長野政雄さんです。

塩狩峠の鉄道事故:1909年2月28日、旭川行きの最終急行列車が塩狩峠の頂上付近にさしかかったとき、最後尾の客車の連結器が外れ、逆行・逸走する列車分離事故が発生した。乗り合わせた鉄道職員の長野政雄(28歳)が、客車の停止を試みている最中にデッキから転落。しばらくすると客車は止まり、乗客は全員無事だったが、長野は客車の下敷きになり殉職した。塩狩駅周辺には彼の顕彰碑が建っている。

 「氷点」と並ぶ三浦綾子さんの代表作です。塩狩峠の事故、そしてそこで殉職した長野さんのことを知った著者が彼の行動や人生に感銘を受け、モデルにして書いた作品です(あくまでモデルなので、ノンフィクションとは少し違いますが)。長野氏は敬虔なクリスチャンで、著者の三浦さんもクリスチャンだったので、そういう意味でも通じる部分があったのでしょう。現にこの作品には、信仰というものが深く関わっています

 見知らぬ多くの人のために自らの命を投げ出す・・・誰でもできることではありません。もし自分が同じ立場だったら同じことができるだろうか、そう想像してみたら、彼がどれほど希有ですごい人だったのかがよく分かります。ただ優しいとか良い人だとかいうだけではない、人間全体に対する愛、そしてそれを貫くための静かな覚悟・・・それが彼の人生から窺えます。

 愛と信仰に生き、そして死んだある男の生涯に、心が洗われるような気持ちになります。ぜひ。

さよなら、ニルヴァーナ:窪美澄

 次に紹介するのは、窪美澄さんの「さよなら、ニルヴァーナ」です。

 14歳のときに女児を殺害し、身を隠すように暮らす元「少年A」。少年に惹かれ、どこにいるのかも分からない彼を探す少女。その少女に亡き娘の姿を重ねる被害者の母親。そして、環の外から彼らを見つめる作家志望の女性。絡み合う4人の人生は思いがけない結末へ向かっていく。

 あらすじから大体予測はできると思いますが、この事件で題材になっているのは「神戸連続児童殺傷事件」です。

神戸連続児童殺傷事件:1997年2月から5月にかけて兵庫県神戸市で発生した連続殺傷事件。中学3年生の男子生徒が相次いで小学生5人を殺傷し、うち2人が死亡した。「酒鬼薔薇聖斗」の名前で、犯行声明文を現場に残したり新聞社に送ったりなどという挑発的な言動や、殺害した男児の頭部を小学校の校門に置くなどの残虐的な犯行で世間を震撼させたが、14歳という犯人の年齢が更に衝撃を与え、社会に、少年犯罪について考えさせるきっかけの一つとなった。

 当時生きていた多くの人にとって、忘れられない衝撃的な事件だと思います。私はまだ生まれていませんでしたが、それでも事件の大方のところは知っています。それほど有名な事件だということです。

 この作品は、犯人の「少年A」という呼称や事件の概要などから見て、明らかに神戸連続児童殺傷事件をモデルにしています。しかし、事件そのものというよりも、その後の関係者たちの人生を描いたものなので、創作性はかなり強め、というよりもほとんど創作です。しかし、創作だと分かっていても、まるで実話かと見紛うほどにリアリティのある描写に引き込まれが揺さぶられます

 内容がかなり重めなので、さくさく読めるような話ではない。なのに、ページをめくる手が止まらずに夢中になって読んだのは、ひとえに窪美澄さんの凄まじい描写力だと思います。小説の中にあふれ出る様々な感情や衝動に圧倒されました。「読ませる力」のすごい小説でした。

 そして、この小説で描いているのは人間の心の奥深いところにある、何か。それは茫洋としていて昏く、本人にさえも何なのかよく分からないもので、でも、誰の心の奥底にもあるもの。自分でも気付かないうちに、足を踏み外してそこにゆっくり落ちていってしまうかもしれない・・・そんな人間の怖さ、危うさを読んでいて感じました。

 題材にした事件の犯人も被害者の遺族も今もどこかで生きている、それを分かっていてこの小説を書いたというところに、窪美澄さんの作家としての覚悟と本気を感じました。ぜひ読んでみてください。

王とサーカス:米澤穂信

 次に紹介するのは、米澤穂信さんの「王とサーカス」です。

 2001年、ジャーナリスト・太刀洗万智は海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためにネパールへ向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発。そして、取材を開始する彼女の前に、ひとつの死体が・・・

 この作品で題材となっているのは、「ネパール王族殺害事件」です。

ネパール王族殺害事件:2001年6月1日にネパール王国の首都カトマンズ、ナラヤンヒティ王宮で発生した事件。ディペンドラ王太子が父王のビレンドラら多数の王族を殺害したとされる事件である。しかし、彼が真犯人かどうかは疑問視されており、事件後即位したビレンドラの弟・ギャネンドラを疑う声もある。真相はいまだ不明である。ギャネンドラの即位により王室の威信は失墜し、後にネパールの王政が廃止されるきっかけともなった。

 ネパール自体あまり日本人にとって身近ではない国なので、この事件も知らない人が多いのではないかと思います。しかし、ネパールという国にとっては、絶大な権威を持つ王を含む王族が身内に殺害されるという、前代未聞の大事件。この作品は、そんな大事件が起きたまさにその瞬間にネパールにいた日本人ジャーナリスト・太刀洗万智が、それとほぼ同時期に同じ場所で発生した殺人事件を追いかける話です。

 舞台はネパール。私自身よく知らない国だけに、異国情緒あふれる街並や文化、雰囲気の描写がとても新鮮に感じられ、興味深く読みました。しかし、穏やかな時間もつかの間、突如起こった王族殺害事件。街の空気が変わり、緊張が走るその様子が、文章からリアルタイムでひしひしと伝わってきました。

 その只中で発見された一つの死体・・・それをきっかけに、万智はジャーナリストとしての自分自身を見つめ直すことになります。何かを報道するということは、記事にするということはどういうことなのか。それによって一体何が起こり、何が変わるのか・・・。ミステリーとしても面白いですが、それ以上にメッセージ性の強い作品です。

金閣寺:三島由紀夫

 次に紹介するのは、三島由紀夫の「金閣寺」です。

 1950年7月2日、「国宝・金閣寺焼失」というニュースにより、世間に衝撃が走った。この事件の陰に潜められた若い学僧の悩み――ハンディを背負った宿命の子の、生への消しがたい呪いとそれゆえに金閣の美に魂を奪われ、ついに心中するにいたった悲劇・・・鬼才三島の不朽の名作

 題材となったのは、「金閣寺放火事件」です。

金閣寺放火事件:1950年7月2日、京都府にある鹿苑寺(通称・金閣寺)において発生した放火事件。幸い人的被害はなかったものの、国宝である金閣や文化財数点が焼失した。不審火の疑いがあるとして関係者を取り調べたところ、同寺子弟の見習い僧侶が一人行方不明であることが分かった。捜索の末、山中で自殺を図っているところを発見され、放火の容疑で逮捕された(後に一命を取り留めた)。

 三島由紀夫という作家の地位を不動にしただけではなく、日本近代文学を代表する傑作として、日本ではもちろん海外でもかなり評価の高い作品です。

 実際に起こった金閣寺放火事件をモチーフに、その犯人の学僧を語り手とした告白文の形で書かれた作品となっています。しかし、あくまでも小説なので、犯人が実際にとった行動とは異なっていますし、犯人の犯行に至るまでの心情もほとんどは作者の想像と創作によって描かれています。言うなれば、これは金閣寺放火事件を作者なりに分析した上で、物語として昇華した作品です。

 身体も弱く、生まれつき吃音というハンディを抱えた青年・溝口。生きにくい世の中と醜い自分自身の人生を恨む彼の心の中は常に「金閣寺」があります。彼にとって金閣寺とは圧倒的な美であり、実物の金閣寺を通り抜けて、もはや美という観念を象徴するものとして金閣を捉えています。ではその美の象徴であるはずの金閣に、彼はなぜ火を放ったのか・・・矛盾しているようにも見える彼の複雑な心情を、美しく、知的な筆致で見事に表現しています。

 とても文学性の高い作品なので、正直理解するのが少し難しい部分があるのですが、日本人ならばぜひ一度は読んでおきたい名作です。

まとめ

 どうでしたか?

 この記事では、実際にあった事件や事故、出来事を題材にした小説を11冊、紹介しました!

 もちろんほとんどの作品は、その事件を題材にしたフィクションですが、それでも、このような事件が実際にあったのだ、と知りながら読むと、感じ方もまた違ってくるのではないでしょうか。

 気になった作品があれば、ぜひ手に取ってみてください。

 では、ここらで。
 良い読書ライフを!

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